京都地方裁判所 平成3年(ワ)480号 判決 1992年10月27日
原告
甲野春子
右訴訟代理人弁護士
莇立明
同
脇田喜智夫
被告
乙川一郎
右訴訟代理人弁護士
高田良爾
主文
一 被告は、原告に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成二年七月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、それを七分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金二二六九万円及びこれに対する平成二年七月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一本件は、妻子のある男性(被告)と交際し、被告の子を出産した未婚の女性である原告が、被告に対し、内縁関係を不当に破棄したことを理由に、慰謝料を請求した事案である。
二原告は、被告は妻と離婚すると約束していたから、被告と肉体関係を持ち、被告の子を出産し、また、被告は原告との生活を行う新居としてマンションを借り、内縁生活を始めていたにもかかわらず、被告が突然一方的に内縁関係を破棄したものであると主張している。
三被告は、原告に対し離婚を約束したこと及び原告と内縁生活をしていたことを否認し、また、原告に対し子は産まないように懇請していたものであり、不当な内縁破棄の事実はないと主張している。
第三判断
一証拠(<書証番号略>、証人甲野、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
1 原告は、昭和四二年一二月二三日、甲野二夫、同海子の長女として生まれ、昭和六二年ころ栄養専門学校の学生であった。
被告は、昭和三五年二月二一日、乙川三郎、同秋子の二男として生まれ、昭和六〇年九月四日、丙沢夏子と結婚し、同女との間に、長男四郎(昭和六一年三月二三日生)及び長女冬子(昭和六三年六月三日生)がいた。被告は、父の経営する菓子店で稼働し、月収約二〇万円を得ていた。
原告の父の経営する鮮魚点と被告の父の経営する菓子店は、同じ市場の中にあったので、原告の父は以前から被告を知っており、原告自身も小学生のころから被告を知っていた。
被告は、昭和六〇年九月に結婚したが、妻の夏子は、昭和六一年三月に長男を出産した後は市場の店に姿を見せなかったため、近所では、被告夫婦の不仲がうわさされていた。
2 昭和六二年一一月ころ、双方の知人の送別会の二次会で、被告は原告に対し、妻とは仲が悪く別居状態にあり、離婚することを考えていることを話した上、原告に好意を持っている旨述べた。原告は、被告に妻子がいることを知りながら、右の被告の言葉を信じて交際を始め、約一か月後には肉体関係を持つに至った。
原告と被告とは、昭和六三年八月には北海道に、平成元年一月には宮崎に旅行するなど、親しく交際し、その間、被告は原告に対し、妻と別れて原告と結婚する旨述べていた。
3 平成元年一〇月、原告は、被告の子を懐胎した。原告が、被告に相談したところ、被告は、どうせ妻とは離婚するのだから産んでもよいと、出産することを承諾したため、原告も出産することにした。
4 同年一一月ころから、原告と被告とは、一緒に住むマンションを探し始め、また、同年一二月ころから、内縁生活のための家財道具を揃え始めた。
平成二年一月、原告の父が、原告と被告との交際及び原告の妊娠の事実を知り、被告を家に呼んで説明を求めたところ、被告は、原告の父に対し、現在妻と離婚の話し合いをしている最中であること、原告とは結婚すると述べた。
5 同年三月一九日、被告は、原告との生活の場として、京都市上京区内にあるマンション「○○○」一〇〇一号室を借り、敷金及び礼金各四〇万円を支払った。賃貸借契約書の入居者の欄には、被告本人のほかに、婚約者として原告の名も記載されていた。
同日、右マンションに、布団、箪笥、テレビ・冷蔵庫等の電化製品等を持ち込み、原告と被告とは内縁生活を始めた。マンションの家賃(約一四万円)は被告が支払い、被告は原告に対し生活費として月一〇万円を交付していた。
6 同年五月二〇日、原告は長男五郎を出産した。
被告は、原告の入院中、毎日見舞いに来ていたが、同月二四日、突然原告に対し、別れてくれと言い出した。そして、原告が退院した同月二八日、あらためて、被告は原告に対し、妻と離婚できないので別れてくれと述べた。
原告は、産後で体調が悪いので、退院後は実家に帰った。
同年六月末、被告は、マンションの契約を解約した。そのため、原告は、原告が揃えた家財道具を実家に移した。
7 被告は、同年一〇月末から、妻夏子と別居している。
平成三年二月一二日、京都家庭裁判所で、五郎が被告の子であることを認知する審判があり、右審判は同年三月三日確定した。
原告は、現在、満二四歳であり、実家で子の五郎、父らとともに、父の店を手伝いながら生活している。
二以上の認定事実に基づき検討するに、被告は、妻子があるにもかかわらず、当時一九歳で未婚の原告に対し、妻とは別れると言いながら交際を重ね、妊娠させた上、一旦は原告と内縁生活に入り、子を出産させたが、その出産直後に、一方的に別れたものであって、原告及び五郎の今後の生活等も考えると、被告が原告に与えた精神的苦痛は大きいものがある。
他方、原告は、被告に妻子があるのを知りながら同人と交際したものであって、被告の離婚する旨の言葉を信じていたとはいえ、このような結果になったことについて、原告にも幾分か責任があることは否定できない。
これらの事情のほか、原告の年齢、両名の内縁生活の期間等を総合して判断すると、原告の精神的損害に対する慰謝料として、三〇〇万円の損害賠償を認めるのが相当である。
三弁護士費用
本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、三〇万円と認めるのが相当である。
四結論
以上を合計すると、原告が被告に対し請求することができる損害額は三三〇万円となる。
(裁判官岡健太郎)